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米国経済 過去比較

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SP:SPX   L'indice S&P 500
最近は米国がリセッションするかどうかという記事が盛んに投稿されているのをよく見る。
その中でインフレが一瞬下がったからとか、失業率が高くないからとか、という理由でリセッションはしないという主張も見かける。
もちろん実際のところは神のみぞ知るわけで今はただ意見を言い合っている状態にすぎない。
両主張がもみ合っている時こそ実際に過去を振り返ってみて、改めて「どうなるか分からないからどっちに転んでも大丈夫なよう」に構えておこう。

最上段にS&P500にNBER発表の正式なリセッションをまとめている。2022/09/07現在はGDPで定義したテクニカルリセッションこそしたものの正式にはまだという段階である。
2段目にはSP500の前年比を表示している。肌感的には既にだいぶ落ちたなと思っていたが、まだレッドゾーン(-10% ~ -20%)に入ったかどうかという程度で、過去の大暴落と比べるとまだまだらしい。
このレッドゾーン(RZ)に接したあたりで、かつ過去にリセッション認定されている箇所に縦線を引いている。
過去の実績を見ると
 ①RZ入りしなくてもリセッション入り
 ②リセッション発表後にRZ入り
 ③RZ入りしてから追ってリセッション入り
 ④RZ入りしてもリセッション認定なし
というケースが存在するらしい。
④というケースも存在する限り、今回も正式なリセッションになるかどうかはわからない。だが実際に我々が気にするのはリセッションになるかどうかではなく株価自体がどうなるかであるため、リセッション入りするかどうかは正直どうでも良いのかもしれない。


3段目のグラフには失業率の発表値およびその前年比をまとめている。過去を振り返るとRZに抵触した時点で失業率が前年比越えしているケースが多かったようである。
一方で米国で完全雇用と言われている5%(by四季報) を基準に見ると、RZ入りした時点でも完全雇用状態になっていたことがそれなりにあった模様。
※完全雇用の定義は私の理解では「クビはNGで、自発的ニート(自ら望んだ退職)はOK」という状態で、後者がいるため0%とは定義されない。またここでは5%を基準としたが、実際には国や機関によって幅があるらしい。
また面白いのは、私がかねてよりベンチマークとしている第一次オイルショック時は、RZ抵触時点でも失業率が前年比を下回っていたことである。この時はまもなく失業率が上昇し、すぐにリセッション入りしている。
この失業率の状況は220907現在も同様で、前年比のグラフも直近ではかなりの勢いで±0%に近づいているので、この勢いで失業率が急上昇する可能性も十分あるだろう。
以上から失業率が「現状」高くないからリセッションしないだろう=新たな底値はつけないだろう、というのはただの希望的観測だというのが分かる。また今後の暴落の有無を予想するにあたり完全雇用という言葉は全く機能せず、表示している範囲内では多くの箇所で、ひとたび失業率が急増したらあっという間に株価も暴落しているので注意したい。

4段目には政策金利、インフレ率のチャート、および金利上昇時のみの金利の変化率(前回の利上げ時からの比)をヒストグラムで示している。
特に今年に入ってからは、平時の0.25%利上げから0.5%, 0.75%利上げが普通になってきているので、50bp(ベーシスポイント。100bp=1%)以上を紫にして見やすくしている。
右の縦軸が前回比を示しており、数十年ぶりに50bpを超えだしたことが見て取れる。
なおこれまで私の過去の投稿でオイルショック時は金利が異常に高かったことを示していたが、その変化率(前回比)は見たことがなかった。
変化率を見ると第一次OS時は100bp~200bp、第二次OS時は最大300bp超の利上げが実施されていたことが分かる。
ちなみに最近よく名前を目にするボルカー元FRB議長は1979年から第二次OSあたりで果敢な利上げを行った方で、最近そのインフレ退治の功績が再び注目されているらしい。この方については先日のジャクソンホールでもパウエル議長が言及していた。
もし今後インフレが再び上昇し始めたら、今回も一時期うわさされたように1%越えの利上げが起こるかもしれない。しかし過去にはボルカー元議長がそれ以上のペースの利上げがあったことを知っておけば動揺する必要はない。ただし市場は同様するだろうから、落ち着いて傍観していればいい。

3段目の失業率と4段目の金利の推移を比べてみるのも面白い。
基本的に株価の暴落は好転しすぎた景気や物価を正常に戻すために金利を上げて、ある程度引き締められたときに起こる。
金利が集中的に上げられているところに丸を付けてみた。これを見ると黒〇の箇所からおよそ2年以内に失業率が上昇していることが分かる。
※コロナのとこは明らかに偶然(だと信じたい)ので丸を省略。
一方で1984年と1994年の2か所の青〇部分はだけは、金利を上げてはいるものの失業率は増えていない。
この理由を自分なりに考察してみた。
最近は金利の上昇があたかも悪いことのように捉えられているが、本来は実際の経済の体力に応じて程よく利上げされるのは適度なインフレと共存するために良いことのはずである。そのためこの当時に消費マインドが高ければ、これらの金利上昇は景気上昇と共存できていたためと言えるのではと考え、最下段に消費者信頼感指数を表示してみた。
全体を見るとおおよそ75をセンターとして50~100程度の値となっている。これを見るに予想通り青〇の2か所あたりでは90~100程度と消費者マインドが高く、利上げの痛みがあってもその分ものが売れていたことがうかがえる。
一方で現在はどうだろう。なんと過去50年で最低値を記録しているではないか。コロナも続いているためか、第2次OS時の最低値を僅かながら更新してしまったようだ。
消費マインドが大きく落ち込んだ箇所では例外なく失業率が上昇しているのも見て取れる。物が売れないので当然ではある。
もちろん絶対ではないが、またすぐにではないが、追って失業率が上昇する確率は高いと言えそうだ。

まとめると「リセッションするかどうかは分からない(というかどうでもよい)が、今後失業率が上がって株価の暴落がいっそう加速する可能性は十分ある」である。
大事なのはいかなる時もパニックにならないことで、6月の底値が大底だろうと楽観で決めつけず、上がっても下がってもどちらも想定内だという余裕をもって今後の相場を楽しみたい。
Commentaire:
最近のBloombergで、直近の失業率の上昇は労働参加率が上がったことに起因しているため良いことだ、的な記事を見た。
労働参加率が上がって労働者が増えれば、それに伴って失業者数が増えるというならわかるが、その場合分母も分子も増えるので失業率は変わらないのではと思い計算してみた。

まず失業率は以下の式で定義される。
失業率=失業者数/(失業者数+求職者数)
ここで失業者数aが前回からk倍、求職者数bがt倍になるとすると前回と今回の失業率は以下のようにあらわせる。
 失業率(前回) = a/(a+b)
 失業率(今回) = ka/(ka+tb)
前回と今回の比は
 失業率比(今回/前回) = {ka/(ka+tb)} / {a/(a+b)} = (a+b)/{a+(t/k)b}
となる。したがって前回比が上昇するにはこの分子 > 分母となればよく、そのためには t/k < 1 、つまり t < kとなればよい。
したがって失業者数の上昇率が求職者数のそれを上回れば、失業率が上昇する。単純に失業者の上昇率が大きいとだけ考えると悪い話に見えるが、下記のケースでは矛盾なく良い話となる。
 ・失業者より求職者の母数がそもそも大きいケース
試しに数字を入れてみよう。
 (前回) 失業者数100、求職者数1000のとき、失業率は9.1%
 (今回) 失業者数110、求職者数1050のとき、失業率は9.5%
 この時 k = +10%、t = +5%
このように失業率が上がっても、それを労働参加率があがったからだというロジックでポジティブに見せることは可能なのである。
しかし当記事でまとめたように、失業率が上がり続けるといずれは悪い方に転ぶので、印象操作には要注意である。
Commentaire:
上記コメントの訂正
正:就業者数
誤:求職者数
Commentaire:
公式をtypoしていたので再掲。
失業率=失業者数/(失業者数+就業者数)

また労働参加率の定義を書いていなかったので追記しておく。
労働参加率=労働力人口(= 失業者数 + 就業者数)/ 生産年齢人口(16歳以上の人口)
※失業者数に専業主婦や学生などはもちろん含まれない。パートやバイトは就業者扱い。
分子の労働力人口は失業者が足されるのでわかりにくいが、調べたところ要するに「働こうと思えば働ける人」がカウントされているらしい。
単純に会社勤めの人だけを想像すると失業者数が増えたらその分就業者数が増えて分子は±0となりそうだが、アメリカは日本のような新卒一斉採用のような制度ではないため、時期を問わずいつでも分子が補完される。

つまるところ「失業率が増えたのは労働参加率が増えたからだ」という言い方は「失業者も増えているかもしれないが、その分まだ採用の門戸も開いているから問題なし」と言い換えることができる。
このように言い方次第で印象は作ることができるので、時には統計データの定義を確認して自分なりの判断をすることをお勧めする。
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